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「脊柱管」って聞いたことありますか?
背骨(脊椎)の真ん中には、細長いトンネル状の空間があります。これが「脊柱管(せきちゅうかん)」です。
このトンネルの中を、脳から続く脊髄(せきずい)や、そこから枝分かれした神経根が走っています。
首(頚椎)から腰(腰椎)、仙骨までずっと続くこの道は、全身に神経信号を送るための大切な通り道です。
- 構造:椎骨(背骨の骨)、椎間板、靭帯に囲まれている
- イメージ:脊柱管は「神経トンネル」、神経はその中を走る「ケーブル」
普段はあまり意識することのないこの空間。ですが、あるきっかけで狭くなると、生活に大きな影響を与えます。
脊柱管狭窄症とは?

脊柱管が何らかの理由で狭くなり、中を通る神経が圧迫される状態を「脊柱管狭窄症」といいます。
特に腰部で起こる「腰部脊柱管狭窄症」が多く、以下のような症状が出ます。
- 腰やお尻、脚の痛みやしびれ
- 長く歩くと症状が強まり、少し休むと軽くなる(間欠性跛行)
- 長時間立っていられない
- 排尿・排便障害(重症例)
症状は少しずつ進行することが多く、最初は「疲れやすい」「腰が重い」程度だったものが、徐々に歩く距離が短くなる…という流れが典型的です。
日本での発症状況
脊柱管狭窄症は50歳以降から急増し、特に高齢者に多くみられます。
- 推定患者数:580万人以上
- 高齢者(60歳以上)有病率:約10%
- 発症ピーク:50〜69歳
- 80歳以上ではMRI所見で約30%が重度狭窄(症状ありは20%未満)

年代別有病率(例)
年代 | 有病割合 |
---|---|
40代 | 10〜18%(慢性腰痛含む) |
50〜69歳 | 15〜20%(腰部狭窄症が顕著) |
80歳以上 | 18〜20%(MRIでは約30%) |
脊柱管が狭くなる主な原因
🕒 加齢変化(最大の原因)
- 椎間板の変性
- 椎間関節の変形
- 骨のトゲ(骨棘)形成
- 黄色靭帯の肥厚
🏠 生活習慣
- 重い荷物を持つ仕事
- 運動不足
- 肥満
- 悪い姿勢
- 喫煙
🚑 外傷・慢性負荷
- 脊椎骨折
- すべり症
- 椎間板ヘルニア
その他
- 骨粗しょう症
- 先天的に脊柱管が狭い
- 炎症性疾患や腫瘍
- 遺伝的要因
- 偏食・睡眠不足・ストレス
予防と進行を遅らせる生活術
脊柱管狭窄症は完全に防ぐことは難しいですが、発症リスクを減らす・進行を抑えることは可能です。
📏 姿勢を整える
- 立つとき:あごを軽く引き、背筋を伸ばし、お腹を引き締める
- 座るとき:腰を深くかけ、膝を90度前後に
- デスクワーク:画面は目線の高さ、猫背防止
⏳ 長時間同じ姿勢を避ける
- 1時間ごとに立ち上がり、歩く
- 肩・腰を回す簡単ストレッチ
💪 体幹・インナーマッスル強化
- プランク、腹筋、背筋
- ピラティスやヨガ
🧘 柔軟性を保つストレッチ
- 胸を開くストレッチ
- 腸腰筋ストレッチ(骨盤を支える筋肉)
- 肩甲骨・股関節・足首まわり
🔍 姿勢チェック習慣
- 鏡や写真・動画で確認
- 少しの崩れも早めに修正
🛋 腰に優しい環境づくり
- クッション性のある靴・椅子
- 立ち仕事なら足元マット
自宅でできるおすすめ運動
- プランク
- 肘とつま先で体を一直線に支える
- 20秒キープ×2〜3セット
- ブリッジ
- 仰向けで膝を立て、腰を持ち上げる
- 10〜15秒キープ
- 腸腰筋ストレッチ
- 片膝立ちで骨盤を前に押し出す
- 左右15秒ずつ
まとめ
脊柱管狭窄症は、「年齢のせいだから仕方ない」病気ではありません。
正しい姿勢・筋力・柔軟性を日常的に保つことで、症状を予防・軽減することができます。
背骨の中の“神経トンネル”を守るために、今日から少しずつ背筋を伸ばす習慣を始めてみませんか?
🦴ときどき、リハを始めてみませんか?
参考文献
- 日本整形外科学会. 腰部脊柱管狭窄症(患者向け解説). 日本整形外科学会 公式サイト
- 日本脊椎脊髄病学会. 腰部脊柱管狭窄症 Q&A/疾患情報. 日本脊椎脊髄病学会 公式サイト
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 腰痛・加齢と運動との関係. e-ヘルスネット
- 国立長寿医療研究センター. 高齢者の腰部脊柱管狭窄症と歩行障害. NCGG
- Kreiner DS, Shaffer WO, Baisden JL, et al. Evidence-Based Clinical Guidelines for Multidisciplinary Spine Care: Diagnosis and Treatment of Degenerative Lumbar Spinal Stenosis. North American Spine Society (NASS) Guideline. spine.org
- Katz JN, Harris MB. Lumbar Spinal Stenosis. New England Journal of Medicine. NEJM
- Genevay S, Atlas SJ. Lumbar Spinal Stenosis. Best Practice & Research Clinical Rheumatology. ScienceDirect
- Ishimoto Y, Yoshimura N, et al. Prevalence of Symptomatic Lumbar Spinal Stenosis in a Population-Based Cohort. Spine. Spine Journal
- Tomkins-Lane C, et al. Physical Activity and Function in Lumbar Spinal Stenosis. Spine. Spine Journal
- Delitto A, et al. Clinical Practice Guidelines for Low Back Pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. JOSPT
※ 一般向け解説(1–4)+ガイドライン・学術レビュー(5–10)。数値は調査により幅があります。
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