はじめに:その痛み、長引いてませんか?
「もう3ヶ月以上、腰が痛い…」
「レントゲンやMRIでは異常なし。でも、痛みはなくならない…」
こんな経験をしたことはありませんか?
その痛み、「慢性疼痛(まんせいとうつう)」かもしれません。
慢性疼痛とは、通常のケガや病気の回復時期を過ぎても、痛みが長期間続く状態を指します。
実はこの痛み、単なるケガの後遺症ではなく、神経や脳、心の働きと密接に関わっているのです。
慢性疼痛とは?
【3ヶ月を超える“脳の記憶”】
慢性疼痛の定義は、「3ヶ月以上持続する痛み」とされています。
もともとの原因(ケガ・炎症など)が治癒したあとも、なぜか痛みだけが残る。
その背景には、神経の感作、中枢神経の過敏性、痛み抑制機構の低下、心理的要因などの複合的なメカニズムが存在します。
慢性疼痛の“脳と神経”の仕組み
🧠 神経系の変化(感作)
繰り返される刺激や神経損傷によって、痛みの神経が過敏な状態になります。
その結果、本来は痛みを感じない刺激でも「痛い」と認識してしまう現象(アロディニア)が生じます。
🧠 中枢感作(脳や脊髄の神経回路の再構築)
継続する痛み刺激により、脊髄や脳の痛みを処理する神経回路が変化します。
この変化により、痛みの感度が上がり、原因が取り除かれても痛みが残り続けることがあるのです。
🧠 下行性疼痛抑制系の機能低下
通常、脳には痛みを抑える「下行性疼痛抑制系」というシステムがあります。
しかし、慢性疼痛の患者ではこの抑制機構がうまく働かず、痛みが増幅されやすい状態になります。
🧠 心因性要素(ストレス・不安・抑うつ)
痛みは**「感情」や「思考」**とも密接に関連しています。
ストレスやうつ、不安があると、脳の痛みの処理に悪影響を及ぼし、痛みを“学習”してしまうのです。
その結果、身体的な異常がなくても痛みだけが脳内に残り続けます。
慢性疼痛の悪循環【図解あり】
慢性疼痛は「痛み→動かない→筋力低下→さらに痛い→もっと動けない…」という悪循環に陥りがちです。
👇視覚でわかる図はこちら:
🖼️ 慢性疼痛の悪循環(図解)
慢性疼痛の種類:3つの痛みの絡み合い
慢性疼痛は、次の3つの要素が絡み合っていることが多いです。
種類 | 特徴 | 例 |
---|---|---|
侵害受容性疼痛 | 組織損傷や炎症による | 骨折後、関節炎など |
神経障害性疼痛 | 神経の損傷が原因 | 坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛 |
痛覚変調性疼痛 | 神経や脳の機能異常による | 線維筋痛症、慢性腰痛など |
特に「痛覚変調性疼痛」は、器質的な異常が見つかりにくいにもかかわらず、強い痛みを感じてしまう厄介な痛みです。
どう向き合えばいい?リハビリでできること
✅ ① 「動いても大丈夫」という体験を積む
- 痛みがあると、どうしても安静にしがち
- でも**軽い運動(散歩・ストレッチ)**は、脳に「動いても悪化しない」と教える大切な手段です
✅ ② 呼吸・リラクゼーション
- 腹式呼吸や瞑想などで自律神経を整えることで、痛みの過敏性を下げることができます
✅ ③ 温熱療法(温める)
- 血流改善+筋緊張の緩和効果があり、リラックスにもつながります
✅ ④ 姿勢・体の使い方を見直す
- 痛みが出やすい動き・癖を理学療法士が評価し、改善に導きます
「心」のリハビリも忘れずに
慢性疼痛では、心の状態が痛みに影響します。
- 「どうせ治らない」という思い込みが、痛みの処理を複雑にする
- 認知行動療法や痛み日記など、心理的アプローチも効果的
- 小さな変化に気づけるようになると、痛みとの付き合い方が変わります
まとめ:痛みを“敵”にしない
慢性疼痛は、「なかなか治らない痛み」ではなく、**「治癒のルートが複雑な痛み」**です。
脳と神経の“可塑性(変わる力)”をうまく使えば、
痛みの感覚も少しずつ書き換えることができます。
痛みを無理に消そうとするよりも、
「痛みとともに動く」ことが、新しい回復の一歩になります。
✅ ときどき、リハを始めてみませんか?
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 「慢性の痛み」. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp
- 日本慢性疼痛学会. 「慢性疼痛の分類と定義」. https://www.jspc.gr.jp
- Melzack R, Wall PD. Pain mechanisms: a new theory. Science. 1965.
- 森岡 周. 「痛みと身体性 〜中枢感作と可塑性を理解する〜」. 医学書院, 2018.
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