「最近、誰かと話しましたか?」
仕事から帰ってきて、気づけば一日、誰とも会話していなかった。
そんな日が続いていませんか?
私たちは日々、誰かと会話をしています。家族と、同僚と、あるいはコンビニの店員さんと…。
でもその「話す」という行為が、実は心と体の健康を支える土台になっていることは、あまり知られていません。
リハビリの現場でも、「よく話す人は元気」「しゃべらない人ほど体調を崩しやすい」といった印象を持つことがあります。
それはただの“感覚”ではなく、医学的にも注目されつつあるテーマです。
会話は“健康行動”のひとつ?
まず、「話す」という行為を分解してみましょう。
会話には、
- 呼吸(発声)
- 表情筋や舌の筋肉
- 聴覚
- 思考
- 記憶
- 感情の調整
など、さまざまな身体機能と脳の働きが関わっています。
つまり、話すこと自体が、体と心のトレーニングになっているのです。
✅ 話すことで鍛えられる機能
話す動作 | 関連する機能 |
---|---|
息を吐く・吸う | 呼吸筋(横隔膜・肋間筋) |
発声 | 声帯、腹筋 |
発音 | 舌・口唇の筋肉 |
内容を考える | 前頭前野・海馬(記憶) |
相手の反応を見る | 社会的認知能力 |
まさに、「しゃべることは、全身運動」なんですね。
会話が健康に与える5つのメリット
① 社会的つながりの維持
人との会話は、社会的なつながりをつくります。
厚生労働省によると、孤独感が強い人ほど、心疾患や認知症、うつ病のリスクが高まるとされています。
「誰かと話す」というだけで、自分は“社会の中にいる”という安心感が生まれます。
高齢者では、「一日に会話した相手の人数が多い人ほど、要介護認定を受けにくい」という報告もあります。
② 認知機能を刺激する
話すという行為は、単なる情報伝達ではありません。
頭の中で言葉を選び、相手の反応を読み取りながら会話を進めるには、記憶力・注意力・思考力などの総動員が必要です。
特に高齢者においては、「会話量が多い=脳が活性化している」ことを示す研究が増えています。
認知症予防として“おしゃべり会”を取り入れる自治体もあるほどです。
③ ストレス発散になる
「ちょっと聞いてほしいんだけど…」
そんな風に誰かに話すだけで、気持ちがスッと軽くなった経験、ありませんか?
感情を言語化すること(=ラベリング)は、心理学的にもストレス軽減効果があるとされています。
話すことで脳内のストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が減り、心拍数も安定します。
また、話すこと自体に癒し効果があるとも言われています。
④ 呼吸・嚥下機能のトレーニングに
意外かもしれませんが、「話す」という行動は、呼吸筋や飲み込む力にも関係しています。
高齢者においては、
- 会話量が少ない
- 発声が弱くなってきた
- 話すとすぐ疲れる
という状態は、誤嚥や肺炎のリスクサインになることも。
逆に、「よくしゃべる人ほど誤嚥しにくい」という研究もあります。
発声練習や歌唱を通じて嚥下(えんげ)機能を高める「音楽療法」も注目されています。
⑤ 気づけなかった体調変化に早く気づける
実はこれ、リハビリ職としての“実感”でもあります。
よく話してくれる患者さんは、「今日は少し疲れてる」「最近お腹の調子が…」といった変化を自分で気づき、口に出してくれます。
でも、あまり話さない方は体調の悪化に気づくのが遅れがち。
しゃべる=自分の体調と向き合う時間でもあるのです。
会話の減少がもたらすリスク
では、話す量が減るとどうなるのでしょう?
話すことが減ると…
- 表情が乏しくなりやすい
- 飲み込む力が弱くなり、誤嚥性肺炎のリスクが増える
- 会話をしない日が続くことで、孤独感や無気力感が強くなる
- 認知機能が低下しやすくなる
という負のスパイラルが起きやすくなります。
特に高齢者では、「独居・会話ゼロ・活動量低下」の三拍子が揃うと、フレイル(虚弱)への入り口になってしまいます。
話すのが苦手な人はどうすればいい?
「私はもともと無口だから…」という方も、無理におしゃべりになる必要はありません。
ただ、「自分から声を出す」ことは意識的に取り入れてみましょう。
たとえば…
- 朝起きたら「おはよう」と声に出す
- 鏡の前で口角を上げて、発声練習をする
- ラジオに相槌を打ってみる
- 読み聞かせや音読を習慣にする
これだけでも、発声・呼吸・脳の活性化になります。
また、地域のサロンや趣味の集まりに参加するのも◎。
「話せる場」に身を置くことが、心と体にじわじわ効いてきます。
リハビリの現場から見た「話す人、話さない人」
私自身、理学療法士として多くの方と関わってきました。
その中で印象的なのは、よく話す人ほど、回復が早いということ。
もちろん全員がそうではありませんが、
- 自分の体について関心がある
- 不調に早く気づける
- 気持ちをためこまない
という特徴が、回復を後押ししているように思います。
また、言葉が増えることで、セラピストとの信頼関係が深まりやすいのも大きなポイントです。
まとめ|しゃべることは、健康の“土台”になる
「よくしゃべる=健康」という単純な話ではありません。
でも、しゃべることは、心と体の元気を支える“サイン”であり“手段”でもあるのです。
最後に一言。
「最近、しゃべってないかも…」
そう思ったあなた。
まずはひと声、「おはよう」から始めてみませんか?
🔖参考文献
- 厚生労働省. 高齢者の社会的孤立と健康に関する報告書. 2020年.
- 内閣府. 高齢社会白書(令和5年版).
- Satake S, Arai H. “Frailty: Definition, Diagnosis, and Treatment.” Geriatrics & Gerontology International, 2020.
- Hashimoto S. “Effects of verbal communication on cognitive decline in elderly: a cohort study.” BMC Geriatrics, 2019.
コメント