わからないけど、「ただ、しんどい。」
理由はわからないけど、なんとなく元気が出ない。
頑張りたいのに、体が動かない。
周りと比べて「自分はダメだな」と落ち込むこと、ありませんか?
実はその「しんどさ」、神経のせいかもしれません。
しかも、自分では気づかないうちに、体の中で“あるスイッチ”が切り替わってしまっている可能性があります。
今回は、**私たちの心と体の状態を左右する「ポリヴェーガル理論」**を紹介しながら、
「がんばれない自分」にどう向き合えばいいのかを、一緒に考えてみませんか?
ポリヴェーガル理論ってなに?
「ポリヴェーガル理論」とは、アメリカの神経科学者スティーブン・ポージェス博士が提唱した、心と体のつながりを説明する自律神経の理論です。
キーワードは、「迷走神経(Vagus nerve)」。
私たちの体には「自律神経」と呼ばれる神経のネットワークがあります。
これは、呼吸・血圧・内臓の働き・感情のバランスなどを無意識に調整してくれている神経です。
一般的には、
- 活発に動くとき → 交感神経
- リラックスするとき → 副交感神経
と教わることが多いですが、ポリヴェーガル理論では、この副交感神経の中でも、
- 「社会的に安心・つながれるとき」の神経(腹側迷走神経)
- 「危険を感じてシャットダウンするとき」の神経(背側迷走神経)
があると考えます。
つまり、ただリラックスするだけでなく、
**「人とつながれる安心モード」と「何も感じたくないフリーズモード」**の2種類があるということ。
自律神経には「3つのモード」がある
ポリヴェーガル理論では、私たちは次のような3つの神経モードを行き来していると考えます。
モード名 | 主な神経 | 状態 | 行動の特徴 |
---|---|---|---|
社会的関与モード | 腹側迷走神経 | 安心・落ち着き | 笑顔・会話・やる気が出る |
闘争・逃走モード | 交感神経 | 緊張・不安・怒り | イライラ・動きが早くなる・心拍数UP |
凍結モード(フリーズ) | 背側迷走神経 | 無気力・脱力 | 無表情・反応がない・動きたくない |
この中で、一番人間らしく快適に過ごせるのは、“社会的関与モード”。
このモードでは、人とのコミュニケーションがスムーズで、消化も良く、呼吸も穏やかです。
逆に、「凍結モード」になると、
- 何も考えられない
- 声をかけられても反応できない
- ただベッドに横になっていたい
そんな“エネルギーが抜けたような状態”になります。
これは体が「危険」と判断したときに、身を守るためにすべてを止めるモード。
決して「怠けている」のではないのです。
「なんでこんなに疲れるの?」の理由
現代社会は、ストレスの多い環境です。
- 忙しさに追われて、気持ちが落ち着かない
- SNSでの人間関係に気を使いすぎて疲れる
- 本音を出せる場所がない
- 過去の嫌な経験がよみがえる
こうした「小さな危険信号」が、無意識のうちに脳や神経に影響を与え、
私たちを「交感神経モード」や「凍結モード」へと押し込んでしまうことがあります。
これは、ポージェス博士が「ニューロセプション(Neuroception)」と呼ぶ現象で、
私たちが意識する前に、神経が“安全”か“危険”かを自動で判断してしまう仕組みです。
「動けない」のは、神経がブレーキをかけているサイン
ポリヴェーガル理論を知っていると、こんなふうに考えられます。
「今、私は“危険だ”と神経が感じて、ブレーキをかけている状態なんだな」
「無理に動こうとするより、まず“安心”を与えてあげよう」
それだけで、自分への見え方が柔らかくなります。
がんばれない日があってもいいし、
すべてに前向きでなくても、それは「神経の正常な反応」。
「がんばる前に、整える」。
このステップが、実はとても大事なんです
今日からできるセルフケア
〜神経を整えて、「安心モード」に戻る5つの方法〜
① ゆっくり吐く呼吸をしてみる
息を吐く時間を意識的に長くすることで、腹側迷走神経が働きやすくなります。
おすすめは「4秒吸って、6秒吐く」呼吸法。
② 「安心できる人の声」を聞く
やさしい声、落ち着く声には、神経をリラックスさせる力があります。
音楽やYouTubeでもOK。自分の神経が“ほっ”とする声を探してみて。
③ お腹や胸に手をあてる
自分の体にやさしく触れることで、「私は今ここにいる、大丈夫」という感覚が生まれます。
座ったままでOK。手のぬくもりは、安心のスイッチです。
④ 「安全な空間」でひと息
人混みや騒音、まぶしい照明などは、無意識に交感神経を刺激します。
可能なら少し静かな空間に移動して、自分のペースで過ごせる時間をとりましょう。
⑤ リズム運動をする(歩く・ゆれる・軽いストレッチ)
一定のリズムで体を動かすことは、迷走神経を刺激して心を落ち着けるのに効果的です。
ゆっくり散歩する、やさしくストレッチするなどでOK。
「がんばれない自分」に、優しくなるという選択
私たちは、つい自分に厳しくなりがちです。
「もっとちゃんとしなきゃ」「みんな頑張ってるのに」「甘えてるだけかも」――。
でも、ポリヴェーガル理論を知っていると、
その“がんばれなさ”には、神経が関係していることがわかります。
- 何もしたくない日があるのは、正常な神経反応
- 自分に安心感を与えることで、体も心も回復していく
- 誰かに優しくしてもらうだけで、神経は整っていく
だからまず、自分にやさしくしてみること。
それが、心と体の“再起動”ボタンになります。
おわりに:不安定な日も、あなたはちゃんと生きてる
「がんばれない日」があっても、それはダメなことじゃありません。
体が「ちょっと待って」と言っているだけ。
ポリヴェーガル理論は、それを神経のしくみとして説明してくれます。
誰かと話して安心できる時間、
おいしいごはんをゆっくり味わえる余裕、
自分のリズムで過ごせるひととき。
それらはすべて、**腹側迷走神経がよろこぶ「安心スイッチ」**です。
がんばる前に、ひと息ついて、
まずは「整える」ことから始めてみませんか?
🔖参考にした本・資料
- ポージェス, S. (2011). The Polyvagal Theory. Norton.
- ダナ, D. (2018). The Polyvagal Theory in Therapy. Norton.
- 武田憲昭. ポリヴェーガル理論とトラウマ治療. 星和書店.
- 日本自律神経学会:https://www.jans.jp
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